11月15日(金)。
午前5時半起床(またもほとんど眠れず…涙)。
窓の外は日本で言うところの「地雨」。細かく一定速度で降り続き、いかにも止みそうもない。この時期のバンクーバーは「レインクーバー」と呼ばれる。旅行者はこの時期のカナダ観光を避ける。つまりは「シーズンオフ」である。
雨が降っていても傘をささず、フードを被っている歩行者が目立つ。ガイドさんの話では、成人してから生涯傘を用いなかったカナダ人もいるらしい(誇張かもしれない)。あまりに雨が多いので、いちいち傘を持ち歩くのが面倒になってくるそうだ。
僕も「郷に従お」と思い、バンクーバーではフード付きダウンパーカーを着用していた。雨を弾くフードはじつに役立ってくれた。吾国が誇るユニークなクロージングに感謝しなきゃならない。
ホテル階下のスターバックスに眠気覚ましのコーヒーを飲みに行くと、行きのバンで一緒だった日本人男性と留学生の娘さんに偶然会った。シアトルまで親子で日帰り旅行に向かうとのこと。ややヒップホップテイストな服装の娘さんは「スタバの1号店があるんですよー」と、かなりはしゃいだ様子。
どのくらいかかるのか尋ねてみると、車で1時間半もかからないとのこと。バンクーバー→シアトルが1時間半……世界地図オンチな僕には位置関係と距離感がうまく掴めない。
「そちらの今日のご予定は?」と訊かれたが、「あ、多分ブラブラするだけです……」と素っ気なく答えてしまった後、今日やるべきことをリストアップしてみようと思い直した。熱いコーヒーで無理矢理目を覚まさせながら書いている。窓の外はこんな感じ(写真)。
●カンナビスショップ取材
●ビールとワインを買いにリカーショップ
●夕食は日本食レストラン(母が行きたがっていたので)
まずはロブソン・ストリートにあるカンナビスショップへ向かう。『City Canabis』という、1年前に出来たばかりの人気店。
事前に調べていた通り、かの『Apple Store』をモデルにして作られたようなスタイリッシュな店構え。実際、店内は真っ白でiPadがそこかしこに置いてある。iPadに表示されている質問に答えていくと、目的や体質に合わせて顧客にもっとも合ったカンナビスを選ぶことができる仕組み。
店内にはどんどん客が入ってくるが、汚い身なりやジャンキーっぽい風貌の人はいない。皆、スノッブで、クレバーで、お金を持っていそうな雰囲気。ちょっと本屋に新刊書をチェックしに来ました、くらいのノリ。ちなみに『City Canabis』は中で喫煙することはできず、販売しか行っていない。
ここ以外のカンナビスショップも2軒ほど見つけて中に入ってみたのだが、こちらは旧然依態というか、グランジカルチャー感強めというか、古き良き西海岸みたいな店構えの店で、客も「まだまだロックとヒッピーカルチャーさ」みたいな人が多く見受けられた。これらの店では店内でも喫煙できるので、しばらく中にいると副流煙だけで少々酔ってくる。
それらの店を回ってみて確信した。『City Canabis』はカナダにおける新しいカンナビス文化を牽引していくことだろう(現在の欧米/カナダにおける大麻合法化の波やビジネスにおける躍進ぶりは、『真面目にマリファナの話をしよう』という書籍に詳しいので、興味ある方はぜひご一読を)。
次に向かった『City Canabis』の近くにあるリカーショップ。
そこでなんと、お馴染みの日本酒『やまたのおろち』(300ml)を見つけた。
1200円かー、日本の約2倍だが、まあ仕方あるまい……そう思ってレジに持っていったら20ドル越え! (値札が間違っていたらしい)
そう、こちらでは日本酒がとにかく目茶苦茶高い。僕の好きな玉乃光(山廃吟醸)という酒はなんと5000円越えである。
そういうわけで、カナダでの日本酒摂取は早々にあきらめた。
事前に調べておいたオーガニックレストラン(というよりも「食堂」に近い)『Tractor(トラクター)』でランチを頂く。カボチャのスープとベジタブルバーガー(冒頭写真)。
これが……なんだろう、ひとくちひとくちが身体に染みこんでくるような、謎めいたおいしさであった。こっちに来て、ようやくおいしい食べものに巡り合えた気がする。人気店らしく、お洒落なサラリーマン、学生、通り掛かりの客でひしめきあっていた。「日本では食べられない」という賛美はあまりに陳腐だが、確かに日本にはまず無いであろうカナダ感溢れる味なのだ。
夜は逆側にある通りで見つけた、人がいない公園でしばらくリラックス。
そのうちに日本食レストランに行く感じでもなくなってきたので(現実に引き戻されそう…)、紅茶店を回っていた母に予定変更を申し出て、ホテル近くの『CACTUS Cafe club』というレストランに行ってみた。
一歩足を踏み入れると、ベランダ席一面にヒーターが煌々と灯され、店内はあたかもクラブのような大音量でポップ・ソングやEDMが流れてて、ウェイトレスは絵に描いたような匿名的な欧米風美人揃い。
「ハーイ、ガイズ〜!」
艶っぽい声とともに大柄美女のウェイトレスがぶ厚いメニューを持ってきた。
開いてみると、どれもこれもすこぶる高い。おまけに店内が暗くて字がよく読めない。
僕も母もメニュー内容を尋ねるエネルギーに欠けていたので、なんとか読めたメニュー——トマトソースパスタ(ミートボール入り)とベジタルブルバーガー(またしても!)を注文。さらに日本人らしく、枝豆を追加注文した。
しかしやってきた料理はいかにも大味で、くどくて、はっきり言ってしまうとかなりイマイチな味なうえ、枝豆以外は2人で食べきれる量ではなかった。殆ど口をつけず、ドラフトペールエールをちびちび飲む。
ペールエールは茶葉とシトラスが混じったようなユニークな風味。
「甘めのが飲みたいです」と英語で言った(つもりだった)が、通じていなかったらしい、相当苦い。
母の頼んだノンアルコールカクテルもジンジャーが効きすぎていて飲み辛い。
確信した。この店、内装はラグジャリーだが、ちょっと「アレ」である。
時間が経つにつれ、店員さんが「anything else??」と訊いてくる頻度が加速度的に増してくる。皿に料理が残っていても、容赦なく下げられてしまう。
もはや潮時と思い、会計。
総額79ドルだったが、チップを含めると90ドル超えるので、100ドル札を手渡して「Thanks a lot. keep it all.」と(笑顔で)言ってみた。途端、それまでこちらを見下していたかのようだった美人店員の顔がウォーターフロントに差し込んできた陽光のように明るく輝き出した。「アプリシエイト!!! Have a good night!!!○○○×××?(聴き取れない)」。じつに現金な文化である。
結局、「チップ社会」には旅行の最後まで馴染むことができなかったように思う。毎回どのくらい手渡すのが適切かわからず、たいてい多めに渡してしまっていた。日本の「明朗会計」は素晴らしい文化だと心から思う。
明日は母の主要な目的である「ヴィクトリア島」ツアーへ。比較的ハードな1日になること請け合いだから、今日こそまともに眠りたい……。(続きます!)